今回は埼玉県秩父市にありますベンチャーウイスキー秩父蒸溜所に見学に行って参りましたのでご紹介していきます。
ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所
日本のクラフトウイスキーの先駆けと言えば、ベンチャーウイスキー 秩父蒸溜所かと思います。
2008年に秩父蒸溜所が稼働し、そこから様々な蒸溜所が稼働・再開をしており、まさに先駆けです。
秩父蒸溜所で作られるイチローズモルトは日本国内ではその人気から、サントリーの山崎・白州以上に入手困難な銘柄となっています。
また、世界的な評価も受けており、海外での人気も高い蒸溜所です。
ウイスキーを好きになって少し経つと、蒸溜所見学に行ってみようとなるかと思います。
都内から一番近い蒸溜所が埼玉県秩父市にあります、ベンチャーウイスキーの秩父蒸溜所なのですが。。
残念ながら一般人向けの見学を行っておりません。。
秩父蒸溜所見学方法
では、一般人が全く見学できないかというと、そうではありません。
一般人でも見学できる方法として、私が知る限り3つの方法があります。
- バー・酒屋主催の見学に参加する
- 秩父ウイスキー祭のオープンデーで参加する
- その他イベントで参加する
方法①:バー・酒屋主催の見学に参加する
一般向けに見学は行っていませんが、プロ向け(バーや酒屋など)には見学を行っています。
バーや酒屋と言ってもそこに務める店員さんは数名なので、ここにお店の常連さんなどを誘って10人~15人程度でバスやタクシーをチャーターして見学しに行くという形式が多いかと思います。
今回私はこの方法で見学することができました。
この方法で参加するのが、一般人としては一番可能性が高い方法かと思います。
ハードルとしてはバーや酒屋の常連になる必要があることで、ある程度お店に通う必要があるかと思います。
SNSなどで見ていると常連でなくとも新規で応募可能(主に抽選)なお店もあるようなので、お店のSNSなどをチェックしておくと何か良いことがあるかもしれません。
秩父ウイスキー祭のオープンデーに参加する
毎年2月に開催されます秩父ウイスキー祭の際に、秩父蒸溜所のオープンデーが開催されます。
このときに一般人でも秩父蒸溜所の見学を行うことができます。
ただし、誰でも見学できるわけではなく、秩父ウイスキー祭のチケットとオープンデー、両方のチケットが必要となります。
秩父ウイスキー祭のチケットはネットでは発売後1~2分程度で完売。
オープンデーのチケットも各部20人程度で枚数が少ないため即完売と、早押し大会に2回勝利する必要があり、どちらのチケットも入手難易度は高いです。
『秩父ウイスキー祭2024』では、私はイベント自体のチケットは入手できたものの、オープンデーのチケットの早押し大会に負けて参加できませんでした。。
また、参加した方に話を聞くと、蒸溜所で試飲はできるようですが、オープンデーの際は物販は行われていないとのことでした。
その他イベントで参加する
不定期開催ではありますが、秩父蒸溜所を見学できるイベントもあるようです。
しかし、不定期開催であることや、あまり情報が出てこないことから、こちらに期待するのは現実的ではないかと思います。
秩父蒸留所
それでは見学してきた様子をご紹介できればと思います。
見学開始の前に、ベンチャーウイスキー、秩父蒸留所についての簡単な説明がありました。
ベンチャーウイスキーは2004年に設立され、今年2024年で20周年を迎えます。
会社設立当初は羽生蒸溜所の原酒の販売などを行っていましたが、2008年に秩父蒸溜所を立ち上げてウイスキー製造を開始します。
つまり、2024年現在で最長16年熟成の原酒があるというわけです。
製造量は年間5万L(第一蒸溜所のみ)で、マッカランなどのスコットランドの大型蒸溜所が2日で製造できる量しか製造することができません。
伝統的なスコットランドの製造方法を目指しており、フロアモルティングを行ったり、直火式蒸溜や木桶の発酵槽を採用したりしています。
また、地元の埼玉の大麦を使用して製造をしたりと、地域との交流・貢献も行っているとのことです。
見学開始
見学は以下の流れで行われました。
- 第一蒸溜所
- 第一貯蔵庫
- 第七貯蔵庫
- 第二蒸溜所
- クーパレッジ
- テイスティング
第一蒸溜所
まずは第一蒸溜所からの見学となります。
入ると発酵している香りがしました。
ポットスチルが稼働しているからか、全体的に暑かったです。
空調はなく、真夏ですと室内は40℃を超えるとのことです。
粉砕
まずはミルルームに案内されます。
1回の仕込みで400kgを使用するとのことです。
国産大麦を7割使用しているとのことですが、残り3割の海外産の大麦で多いのはクリスプ社の大麦とのことです。
その他はドイツやオーストラリア、ニュージーランド産の大麦を使用する場合もあるとのことです。
毎年可能ならクリスプ社に行っているとのことで、行けないならサンプルを送って貰って確認しているとのことでした。
こちらはシュヴァリエという100年前の品種で、製造から16年目にして初の仕込みとのことでした。
ハスク・グリッツ・フラワーの比率は2:7:1とのことで、大麦の品種ごとに変えておらず、秩父蒸溜所としてこの比率に統一しているとのことです。
また、この比率は秩父蒸溜所独自というわけではなく、多くの蒸溜所で採用されている教科書的な比率とのことでした。
大麦のサンプルを食べさせてもらいました。
まずはノンピートのものから頂きました。
食べると皮が目立つという印象で、麦感はもちろんあるのですが、せんべいのような印象を感じました。
続いてはピーテッド大麦です。
見た目はほとんど変わりありません。
フェノール値は50ppmとのことで、ヘビリーピーテッドに分類されます。
先程のノンピートの麦芽に、皮に燻されたスモーキーが加わっています。
スモーキーさはあるのですが、強烈とまではいかないスモーキーさに感じました。
糖化
続いては糖化の工程です。
粉砕した麦芽にお湯を入れて糖を含んだ麦汁を回収する作業です。
見学した際は麦汁を回収し終わった搾りかすのドラフの状態でした。
麦汁は糖度15度くらいになるそうです。
お湯は3回に分けて投入しており、1回目は64℃、2回目は76℃、3回目は96℃のお湯を投入しているとのことです。
温度変えている理由はお湯の層を作り出したいからだそうです。
お湯は温度が高いと上に行き、温度が低いと下にいきます。
この性質を利用して、下の層に圧力をかけて糖を押し出しているとのことでした。
発酵
続いては発酵の工程です。
先ほどの麦汁に酵母を入れて、アルコールを生成していきます。
発酵の工程はトータル5日間かけて行われ、2日間は酵母による発酵が行われ、この段階でアルコール度数は7%ほどになるそうです。
その後3日間は乳酸菌による発酵が行われ、このときに香味などが生まれます。
発酵槽はミズナラ製で、昨年2023年の夏に老朽化のため交換が行われました。
昨年で製造開始15年で、今後も15年単位で交換を行っていく予定とのことです。
乳酸菌は空気中にも含まれますが、木に付着しやすいとされます。
気になるのは交換するとその乳酸菌もいなくなって、味わいが落ちるのでは?ということです。
交換後2~3週間は味が弱かったそうですが、それ以降は交換前と変わらないそうです。
洗浄は熱湯や薬品を使用すると乳酸菌が死んでしまうので、基本的には高圧洗浄機を用いて洗浄しているとのことでした。
発酵して2日目の酵母による発酵の終わり頃の発酵槽を覗かせてもらいました。
アルコールの香りはたしかにありますが、そこまで香りが強い感じはしませんでした。
蒸溜
お待ちかねの蒸溜工程です。
左が初溜用のポットスチルで700Lサイズです。
初溜を終えるとだいたいアルコール度数は23%になるとのことでした。
右が再溜用のポットスチルで200Lサイズです。
年間300樽ほど生産できるとのことでした。
ミドルカットは時間を目安に行い、最終的にはブレンダーが香りで判断するそうです。
香りをかがせて頂きましたが、ヘッドは確かに荒々しい印象でした。
ハートはウイスキーイベントなどで飲むようなニューポットの香りでした。
テールは少し重たい印象を受けました。
第一熟成庫
続いては第一熟成庫の見学です。
第一蒸溜所と同じ敷地内にあります。
入るとバーボンの甘いバニラのような香りと、カブトムシのような土っぽい香りを感じました。
貯蔵量は900樽で、ダンネージ式です。
人や機械が通る道はコンクリートで舗装されていますが、樽が保管されている場所は土になっています。
空調はなく、夏は35℃、冬はマイナス10℃になるのとことです。
エンジェルズシェアは5%ほどとのことでした。
単純計算で10年寝かすと半分になり、エンジェルシェアをケチると美味しくなくなると言われているので、しょうがない。。と仰っていました。
特徴的なものの1つにちびだる(クォーターカスク、120L)があります。
バーボン樽のバット(500L)を切って、鏡板を変えたとのことです。
樽が小さい分鏡板の影響を受けやすいとのことでした。
秩父蒸溜所と言えば、ミズナラですが、ミズナラは旭川の銘木市(丸太の販売会)で購入しているとのことです。
ただし、毎年ミズナラは量が減っており、細くなってきているが、値段は上がっているとのことでした。
第七貯蔵庫
続いては第七貯蔵庫の見学です。
第一蒸溜所、第一熟成庫とは違う敷地にあり、車での移動が必要でした。
見学と言っても、少し覗く程度です。
貯蔵庫は第一~第七まであり、第一~第六がダンネージ式で、第七は構想ラック式となっています。
18樽×7段×33列が2つあり、その1/3くらいのものがもう1つあるとのことで、合計18,000樽保管できるとのことです。
9割埋まってきているとのことで、そろそろ次の貯蔵庫が必要とのことです。
貯蔵されている樽の量の違いか、シャッターが上がったときに香りは第一蒸溜所よりも強いものがありました。
ちなみにベンチャーウイスキーは2025年春からグレーンウイスキーの蒸溜所を北海道の苫小牧で稼働予定です。
秩父で製造したウイスキーを北海道で熟成させる計画は今のところないそうですが、持って行く可能性はゼロではないとのことでした。
第二蒸溜所
続いては第二蒸溜所の見学です。
第七蒸溜所と同じ敷地内にあり、徒歩で移動します。
第一蒸溜所は小規模なクラフト蒸溜所という印象でしたが、第二蒸溜所は大規模な蒸溜所という印象です。
仕込み
大麦を1回に2トン仕込むとのことです。
白い機械はディストーナーで、大麦に含まれるゴミを取り除きます。
第一蒸溜所では手作業で行っているとのことですが、第二は量が多いので機械で不純物取り除いているとのことです。
赤い機械はモルトミルで、麦芽を粉砕します。
発酵
第一蒸溜所はミズナラ製でしたが、第二蒸溜所はフレンチオークを使用しています。
発酵4日目で明日蒸溜予定の発酵槽の匂いをかぐことができました。
乳酸菌発酵の段階でしたので、かなり酸味強い香りがしました。
酸味がある程度あった方が良いとのことです。
蒸溜
ポットスチルの形状は第一蒸溜所と一緒ですが、サイズが5倍となっています。
また、第一蒸溜所はスチームによる間接加熱ですが、第二蒸溜所は直火式という違いがあります。
ヘッド、ハート、テールの香りですが、ヘッドとハートの境目の香りは全く一緒に感じました。
これをかぎ分けられるのがブレンダーなんだなと、プロのすごさを身にしみて感じました。
クーパレッジ
続いてはクーパレッジの見学です。
クーパレッジは樽工房のことで、樽の製造からメンテナンスまで行います。
第二蒸溜所・第七貯蔵庫からは、また車での移動が必要でした。
木材は切り分け、四角に切って、その状態で約3年乾燥を行うとのことです。
ねじれすぎている部分や端材などは、薪として秩父の飲食店などに販売しているようです。
1つの丸太から取れる木材としては30~40%とのことで、丸太1本からだと樽は1つ作れないとのことです。
板目という家具などに用いられる切り出し方ではなく、柾目という切り出し方を行っているとのことで、余計に取れる量が少なくなっているとのことでした。
樽は年間約180樽つくっているそうです。
樽にウイスキーを詰める際はアルコール度数63.5%でカスクインしているとのことです。
アルコールに溶けやすい成分と水に溶けやすい成分のバランスのためこのアルコール度数にしているとのことでした。
ちなみに、熟成させるとアルコールが揮発してアルコール度数が下がるのが一般的ですが、乾燥している環境だと水が蒸発して、逆にアルコール度数が上がることもあるとのことでした。
ホワイトオークの場合はチローズという成分が多く、漏れを勝手に防いでくれるようですが、ミズナラはチローズがほとんどなく、自分で漏れを防ぐことができないとのことでした。
テイスティング
クーパレッジ見学後はビジターセンターに車で移動し、テイスティングを行いました。
秩父 オン・ザ・ウェイ フロアモルテッド2024
フロアモルティングが行われた麦芽を使用した原酒で2024年に発売された1本です。
何だかんだまだ飲んでいなかったのですが、トロピカルな要素があり美味しかったです。
Ichiro’s Malt&Grain 20th Anniversary Edition
上記にも記載しましたが、ベンチャーウイスキーは2004年に創立し、今年2024年で20周年を迎えます。
その20周年を記念して発売されたワールドブレンデッドウイスキーです。
少しピーティーでモルティな印象を感じました。
じっくり飲むとフルーティーさがあり、複雑味を感じ、ブレンデッドのウイスキーの魅力をしっかりと感じることができました。
お話を聞くと閉鎖蒸溜所である羽生蒸溜所や川崎蒸溜所のグレーン、軽井沢蒸溜所の原酒も使用しているとのことです。
これらの原酒は後何年保つんだろう。。
構成原酒
構成原酒はシェリー樽のフィノ、PX、オロロソの3種類を頂くことができました。
この中ではオロロソが適度に樽感と、原酒のフルーティーさを残していて良かったです。
ショップ
ビジターセンター内にはショップが併設されており、グッズを購入することができます。
グラスやコースター、Tシャツ、パーカーなどの定番品から、ゴルフボールやゴルフのマーカーなどのどなたかの趣味が出ているグッズもありました。
あの有名なの提灯の販売もありました。
蒸溜所限定ボトルなどお酒の販売はありませんでした。
今回は、グラス、テイスティンググラス、コースターを購入させて頂きました。
ちなみに支払いには現金のほかクレジットカードを使用することができました。
感想
非常に満足の行く見学でした。
ウイスキーの製造工程は基本的に一緒ではありますが、クラフト蒸溜所はそれぞれの特徴・こだわりが垣間見え、蒸溜所ごとに異なるので面白みがあります。
秩父蒸溜所では製造面でのこだわり、特にクーパレッジには他の蒸溜所にない魅力を感じました。
他のクラフト蒸溜所と比較すると、第二蒸溜所および苫小牧のグレーンウイスキーの蒸溜所を稼働させるなど、規模ややっている幅が広がってきているので、今後も非常に面白みがあります。
ウイスキーとしての秩父は人気で買えないですが、買える時は買いつつ、ウイスキーイベントなどで飲んでいければと思います。
秩父蒸溜所は毎年行けるような場所ではないので、次回は3年後~5年後くらいに訪れることができればと思います。